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潰瘍性大腸炎・クローン病

炎症性腸疾患(IBD)について

腸粘膜に炎症を起こす疾患の総称を炎症性腸疾患といいます。最近やウイルスによる感染性の腸炎、薬剤の副作用による炎症、血液の循環が悪化し虚血がおこったための炎症、その他全身性の疾患からくる腸の炎症など様々な原因から起こります。外にあらわれる症状としては、腹痛、発熱、下痢、血便などがあります。組織的には炎症から腸粘膜がただれてびらんや潰瘍があらわれることがあります。

炎症性腸疾患の原因と種類

炎症性は原因がはっきりとしている特異的炎症性腸疾患(特異性腸炎)と原因のはっきりしない非特異的炎症性腸疾患(非特異性腸炎)にわけて考えられています。 このうち原因のはっきりしているものは感染性胃腸炎、虚血性大腸炎、薬剤性腸炎などで、原因のはっきりしないものは潰瘍性大腸炎、クローン病、単純性潰瘍、べーチェット病が含まれています。 ただし、日本消化器病学会では、炎症性腸疾患と言う場合は狭い意味で、潰瘍性大腸炎とクローン病をあらわすと定義しています。

潰瘍性大腸炎とは

大腸の粘膜が炎症を起こし、びらんや潰瘍となってしまう病気で、今のところ原因ははっきりとはわかっていません。そのため、完治させるために確立した治療法もなく、国の難病に指定されています。日本では患者数は20万人を超えて、米国に次いで罹患者数が多くなっています。近年この疾患に関する研究が進んできており、遺伝的要因、環境要因、腸内細菌叢の変化といった様々な要因から、免疫システムが異常を起こし、TNF-αという体内物質が作られすぎることが原因となっていることがわかってきました。 これによって治療期間は長くかかりますが、症状をうまくコントロールして、発病前と変わらない日常生活を送ることもできるようになってきています。しかし、症状が治まっている期間も適切な治療を続けなければ、炎症が悪化して腸管に穿孔が起こったり合併症を起こしたりすると手術となってしまうこともあり、じっくりと治療を続けることが大切です。

症状

主な症状は腹痛と下痢や血便です。炎症は直腸からあらわれ始めて、だんだんと小腸方向へと連続的に進んでいきますが、炎症が起こるのが大腸に留まることが特徴です。症状が強くあらわれる「活動期(再燃期)」と症状が治まってしまう「寛解期」を繰り返すのが特徴です。炎症が進んで重症化すると、発熱、貧血、体重減少といった全身症状もあらわれてきます。さらに、炎症が続くことによって大腸がんのリスクも高まってきますので、定期的に大腸カメラ検査を行い、しっかりと経過観察していくことが大切です。

合併症

潰瘍性大腸炎では、消化管の炎症は大腸に留まりますが、時に口内炎や結膜炎、肝臓や胆道の障害、関節や皮膚などにも症状があらわれることがあります。 また、腸管の炎症が深くすすむと、大量出血がおこる、腸管の狭窄や穿孔がおこる、ガスが溜まって中毒を起こす巨大結腸症などが合併する可能性があります。

検査・診断

まずは問診で、症状、経緯、服薬歴、既往症等について詳しくお聞きします。潰瘍性大腸炎は血便があらわれることが多いため、血便の形や色などをしっかり観察して、問診の際医師に伝えていただけると診断の参考となります。大腸カメラ検査、X線検査、CT検査などの画像検査、病理検査などを行い、総合的に判断して診断します。特に大腸カメラ検査は、大腸全体の粘膜を観察して、炎症によるびらんや潰瘍の程度、病巣の拡がっている領域などをはっきりと特定することができる検査です。潰瘍性大腸炎の場合、特有の病変は粘膜層から粘膜下層までの比較的浅い部分に留まることが多くなっています。 ※なおCT検査が必要な場合、連携する医療機関で受診していただき、その結果をもって当院で治療を行うことになっております。

当院の大腸カメラ検査について

治療方法

治療は活動期(再燃期)には、できるだけ早く症状を治めて寛解期に導くこと、寛解期にはできるだけ長く症状の無い状態を続けることを目標として行います。治療には、近年開発されたIBDに特化した治療薬である5-ASA製剤(5-アミノサリチル酸製剤)という炎症を抑える薬を基本に、炎症が激しいときはステロイド薬などを短期間使用して効果的に炎症を抑えていきます。その他には、免疫調節薬、抗菌薬などの他、TNF-αの働きを抑える抗TNF-α抗体薬(生物学的製剤)を使用することもあります。

日常生活でのご注意

寛解期に入っても、できるかぎり寛解の状態を続けるために、薬物療法を続けることが必要ですが、日常生活に関しては、ある程度注意を払っていれば仕事や学業、家事などにはほとんど制限なく、発病以前と同様の生活を送ることができます。

食事

寛解期には特に食事の制限はありませんが、暴飲暴食などで腸に負担をかけることがきっかけで再燃することがありますので、注意が必要です。

運動

激しい運動は肉体的なストレスがかかるため避けてください。軽い有酸素運動、ウォーキングやゆっくりとマイペースで行う水泳などを毎日30分程度、習慣的に行うことが推奨されています。続けることが大切ですので、無理のない範囲で行ってください。

アルコール

寛解期には、特に飲酒に制限はありません。ただし飲み過ぎによって再燃の危険がありますので、適量は守ってください。

潰瘍性大腸炎と妊娠・出産

潰瘍性大腸炎であっても、しっかりと服薬や日常生活のコントロールを続けることで、寛解期の間に妊娠・出産・授乳をしている例も珍しくありません。ただし、それらの期間中も潰瘍性大腸炎に対する治療は継続する必要があります。そのため、妊娠を希望する潰瘍性大腸炎の患者様は、妊娠する前から妊娠した場合の対応方法を、主治医としっかりと話し合っておくことが望ましいとされています。特に、妊娠がわかった時点で自己判断をして治療を中断してしまい、再燃期を迎えると、母体だけではなく胎児にも負担のかかる治療が必要になる危険性があります。 すくなくとも妊娠が分かった段階で、必ず主治医に相談するようにしてください。

クローン病について

クローン病も潰瘍性大腸炎と同様、腹痛、下痢などを主な自覚症状とする炎症性腸疾患の一種で、原因ははっきりとは分かっておらず、完治に導く確立した治療法も今のところ発見されていないため、国によって難病指定されています。潰瘍性大腸炎と似ていますが、はっきりと異なる点は、潰瘍性大腸炎では炎症が大腸に限定されるところが、クローン病では口から肛門まで、消化管全体のどこにでもランダムに炎症があらわれるという点です。原因は潰瘍性大腸炎と同様、何らかのきっかけで免疫システムに異常がおこり、TNF-αという体内物質が異常に増産されることから炎症を起こしていることまではわかってきました。そのため、薬物療法によって炎症を抑え、症状があらわれないようにすることで、発病前の日常生活を送ることも可能になってきています。ただし、クローン病は潰瘍性大腸炎より炎症が深く進行する傾向が高く、時に穿孔などの危険性があるばかりでなく、腸管から栄養吸収ができなくなり、栄養療法を受ける必要がおこる可能性もありますので、しっかりと治療を続けていく必要があります。

症状

クローン病は消化管全体にわたって炎症があらわれ、びらんや潰瘍がおこる可能性がありますが、そうはいってもあらわれる場所は小腸の大腸に近い部分、小腸の大腸よりから大腸の小腸よりにかけて、大腸の小腸よりの部分のあたりの発症事例が多くなっており、それぞれ、小腸型、小腸大腸型、大腸型と分類されています。自覚症状としては、腹痛、下痢、血便などですが、潰瘍性大腸炎よりは血便は少ない傾向にあります。その他に、発熱、体重減少といった全身症状や、肛門の切れ痔、潰瘍、膿、粘血便といった症状、目や関節、皮膚などにも炎症があらわれることもあります。 クローン病も、症状が激しくあらわれる活動期(再燃期)と症状が落ちついている寛解期があります。

合併症

クローン病は、潰瘍性大腸炎とくらべて、進行した場合、炎症が腸管の新聞にまで及ぶ傾向があり、それによって、腸管の狭窄、穿孔、膿がたまってできる膿腫、腸管を破って外に出た膿がトンネルをつくる瘻孔(ろうこう)など、重篤な合併症が起こりやすくなっています。さらに炎症が続いた場合には、大腸がんや肛門がんなどを起こすこともあります。

検査・診断

問診で症状の程度、経緯、生活歴、服薬歴などについて詳しく伺います。クローン病では潰瘍性大腸炎より血便は少なめですが、もし血便が見られた場合は、その色や形状などをしっかりと観察し医師に伝えていただけると診断の参考になり助かります。その上で、胃カメラ検査、大腸カメラ検査、腹部超音波検査、X線検査、CT検査などの画像検査、血液検査、便検査、尿検査などから炎症の状態や感染の有無、貧血状態などの検査、各種病理検査などを行い、それらを総合して診断することになります。 ※CT検査が必要な場合は、当院と連携する医療施設を紹介して検査を受けていただき、その結果をもって当院で治療を行うことになります。

当院の大腸カメラ検査について

治療方法

炎症の悪化と摂取した食物は大きな関わりがあります。何を食べたら悪くなるのか、何を食べれば症状を抑えることができるのかは、クローン病の患者様にとって、非常に重要なファクターの一つです。そういったファクターを把握した上で、最適の薬物療法の処方を行い、寛解期に導くための療法を探っていきます。

栄養療法

クローン病の場合、摂取した食物の影響で炎症が憎悪してしまうことがあります。さらに広範囲な炎症によって、何を食べても栄養が吸収できないケースもあります。このような状態になった場合、無理矢理経口栄養による食事バランスを保つことにこだわらず、様々な栄養補給のための治療を行うことになります。これが栄養療法で、経口栄養補給を一部残す方法から、完全に静脈からの栄養補給に頼る方法まで、患者様の状態にあわせて様々な人工栄養の補給によるコントロールを重視していくことになります。どのような栄養補給方法を行うかは、患者様の活動期の状態によって異なってきます。

薬物療法

活動期(再燃期)には、炎症の強さによって、5-ASA製剤、ステロイド薬などを症状にあわせて使い分けて、できるだけ早く寛解期に導く寛解導入療法を行います。症状が治まり、寛解期にはいったら、できるだけ長い間寛解期を続けるために、薬物治療や生活習慣のコントロールを続けていくことが大切です。 また、患者様それぞれの状態にあわせて、免疫システムの異常を抑制する免疫調整薬、TNF-αの活動を抑制する生物学的製剤、抗菌薬などを使った治療を行うこともあります。

日常生活でのご注意

症状が治まっている寛解期でも薬物療法などを維持していく必要はありますが、寛解期にはほとんど発症前と同様の日常生活を送ることが可能です。仕事、学業、家事といった日常の暮らしにはまず制限がありませんが、クローン病の場合、摂取する食物などによっても大きく病態が変化しますので、寛解期にも食事制限はしっかりと続ける必要があります。

食事

消化に時間がかからず、残渣のすくない食事を心がけます。寛解期の場合、あまり神経質に制限する必要はありませんが、自身の体調を常に心がけ、暴飲暴食を避けて、適切な内容の食事を続けるようにしましょう。どのような食事内容が良いのかなどは、患者様それぞれによって異なりますので、医師としっかり相談しながら、避けるべき食物をしっかりと把握していくようにしましょう。また、全体のバランスも考慮して特定の栄養素が偏らないように配慮する必要もあります。食事内容などについては、スマートフォンはパソコンの栄養管理アプリなどもうまく活用するとよいでしょう。

運動

過度の運動は、肉体的ストレスを助長してしまう傾向があるため避ける方が良いでしょう。適度の有酸素運動は、症状の改善に繋がる可能性が報告されていますので、無理のない程度のウォーキングなどを活用していくことが大切です。

アルコール

寛解期であれば、飲酒は特に問題ないとされていますが、過剰摂取は再燃につながるため厳禁です。

喫煙

喫煙習慣は、血流の悪化を招くこともあり、クローン病の増悪要因となります。禁煙を推奨しますが、少なくとも活動期には休煙が大切です。

クローン病と妊娠・出産

潰瘍性大腸炎と同様、寛解期に妊娠、出産、授乳を体験するクローン病の患者様も少なくありません。クローン病の患者様もこだわりなく、そうした体験を共有できることは分かっています。しかし、こうした時期にもクローン病の治療はしっかりと続けておくことが大切です。妊娠したことがわかった時点で寛解期の治療を中断してしまうと、再燃し、さらに深刻化した状態になりかねず、母体ばかりではなく胎児にも厳しい治療を行う必要が出てくる可能性があります。この病気にかかっていることが分かって以降、妊娠や出産の過程は十分に考慮に入れる必要のある懸案であり、何らかのお悩みがある場合も確実に主治医と情報を共有しておくことが大切です。